西宮ライフスキル研究会

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子育てわいわい談話室「愛し方を知らない親と愛され方を知らない子と」

投稿者:かっしー

 これは私が子育て(主に子どもへの虐待防止関連)の講演でよく使うテーマである。

1999年の日本アカデミー最優秀作品賞を受賞した映画「愛を乏(こ)うひと」のサブテーマからいただいた。

私は温泉街で働く母と酒乱の父との間に生まれ、親から愛された記憶はない。父の怒鳴り声、ガラスの割れる音、父の暴力から逃げ惑う母の姿、父親ちがいの兄からの暴力・・・幼少期の記憶といえばそれしかない。

後にわかったことであるが、父と母自身も親から愛されることを知らずに育ったのだという。いわゆる虐待の連鎖である。虐待された経験のある人がすべて自らも虐待をするとは限らない。しかし、繰り返してしまうケースも少なからずある。私自身、我が子をうまく愛せない事に悩み苦しんだ時期がある。そんな時、出会ったのがこの「愛を乏(こ)う人」という児童虐待をテーマにした映画であった。繰り広げられる壮絶な虐待シーンの数々に、幼き頃の心の奥底にしまいこんでいた記憶が、まるで映画のワンシーンのようにフラッシュバックした。

そして気がついたのである、私の苦しみのゆえんはここにあったのだと。

自分のトラウマに気付いたことで、我が子に私と同じ思いをさせてはいけない、この苦しみは私で終わらせなければ・・・そう決意し、虐待の世代間連鎖を断ち切るべくCAP(キャップ)(子どもへの暴力防止プログラム)スペシャリストの資格をとり活動をはじめた。現在はタッチカウンセラーとして親子の良好なコミュニケーションの方法を学んでいただくため幼稚園・保育所・小学校でワークショップやセミナーを開催している。

 今から6年ほど前の話である。ある幼稚園のPTA役員の方から講演依頼をいただいた。依頼の理由は「今、うちの幼稚園に一組の気になる親子がいます。虐待ではないかとみんな感じていますがどうしてあげていいのかわかりません。先生のお話をその母親に是非聴かせたいのです」。ということであった。

1時間半の講演が終了するやいなや1人の若いとても美しい女性が泣きながら私の胸に飛び込んできた。

その女性が、PTAの役員さんが気になっていた母親であった。「先生。泣いてもいいですか?私も先生と同じ苦しみの中で生きてきました。泣きたくても泣けなかった。泣く場所がなかったんです」。それだけ言って私の腕の中で泣き崩れた。落ち着いてからよく話を聴いてみると、彼女も父親から暴力を受けて育ち、母親はいつもそのそばで見て見ぬ振り、挙句の果てに「お前が悪いからだ。泣いてはいけない。絶対泣くな」。と娘をかばうわけでもなく、泣く事を許さなかったというのである。

泣きじゃくる彼女を抱きしめる私のまわりを、他のお母さん方が取り囲み一緒に涙を流した。そして、帰り際に1人のお母さんがこうおっしゃった。「先生。これから私たちがあの親子を見守っていきます」。と。

彼女はそんな仲間に支えられながら、驚くほど素敵なお母さんへと成長した。現在、発達障害の長男を育てながら、「発達障害の子どもを持つ親の会」で子育ての悩みを抱える保護者の相談にのり、キラキラ輝きながら精力的に活動を続けている。我が子につらく当たることはほとんどないという。

そんな彼女の姿を見ていると、人は自分自身の課題に気付き、身近な誰かの支援さえ

あれば“必ず変われる”。そう確信する。 親による子どもへの虐待のニュースを耳にするたび、誰かがその親子のSOSに気付き、適切な支援をしてあげられたなら、子どもは大切ないのちを失わずにすんだはず。そう思うと悔しくてならない。

子どもはどんなひどい育てられ方をしても、親を信じ愛そうとする。親からなぐられながら、ベランダに放置されながらも、きっと子どもは母を信じ、心の中で「おかあさん。おかあさん」。と何度もその名をを呼び続け、助けを求めたに違いない。そんな子どもの姿を想像するだけで胸が締め付けられる。子どもはみな、幸せに生きる権利をもって生れてくる。その権利を奪うことはだれにもできないのである。

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